このお話は「親父の三回忌 その1」の続編です。
儀式に伴って、新たな卒塔婆を墓の後ろに立てる手はずになっている。しかし、親父の葬式の時に収めた卒塔婆が結構な数なので、まずはこれを排除しなければならない。
ちょうどよい人足がいるじゃないか。子供たち二人を動員し、いよいよ強くなってきた雨の中、墓場へと向かった。
おそらくはそう遠くない未来に俺も収まるはずの、先祖代々の墓。以前、祖父が亡くなった時、納骨のために開けてみたら、なんと墓の中が水浸しになっていた。地下水が隙間から流れ込んでいたようである。
骨壺がみんな浮き上がっていて、中には倒れて中身が出ちゃっているものもあった。
これは大変だと、結構な金額をかけて墓の底上げをした。要するに、それまでは地下に墓室があって、墓石は地面に置いてあるような形だったものを、地面に70センチほどの高さの墓室を新たに設置し、その上に墓石を乗せることにしたのだ。
だから、我が家の墓は周囲より一段高い。ちょっと優越感。
卒塔婆を取り除くためには、この70センチほどの高さの墓室に乗らなければならない。
結構な段差である。びちゃびちゃなので、手は付きたくなかった。雨の中傘さしながら、脚だけでバランスとって70センチを上がるのは、アラフィフおやじにとってはかなりしんどい。ちょうど、机の上に手を使わないで乗っかるような感じだ。
とはいえ、一発で上ることができた。「どうだ、おじちゃんかっこいいだろう」と心の中で自慢ながら、卒塔婆を取り出して子供たちに手渡していく。
古くなった卒塔婆は、墓場の奥にある廃棄場に置いておけば、ご住職が(たぶん)焼却処分してくれる。
雨が続いたので、ちょっと素敵な傘のご紹介。
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待合室に戻ると、参加する親族はほぼ全員そろっていた。
ただ、今回は少し寂しい。
2家族が欠席しているのだ。一方は父方の親戚。もう一方は母方の親戚。どちらも末期ガンである。
父方のほうは、もう全身に転移していて、どうにもならない。現在は治療をあきらめ、自宅でモルヒネを投与され、ずっと夢の中で過ごしている。
母方のほうは、中脾腫(ちゅうひしゅ)という特殊なガンに侵されている。肺ガンの一種だが、原因はアスベストの吸引。以前は多くの建築物で、優秀な耐火素材として多用されていた。
しかしこの素材、とても細かい針状の微粉末を空気中に拡散させる。この微粉末が呼吸とともに肺に侵入すると内壁に突き刺さり、長い時間をかけて肺を侵していくのである。
だから現在は、アスベストの使用が一切禁止されている。
親戚のおばちゃんはこれを子供のころに吸い込んでいたのだろう。こんな珍しい病気にかかってしまった。
とはいえ、この病気は公害病認定(正確な名称は忘れました。違ってたらごめんなさい)されているので、治療費は全額国が負担してくれる。
中脾腫は、20世紀に生まれた日本人なら、誰でも発症する可能性がある。かくいう俺自身、子供のころは学校の理科室で石綿金網を使って実験していた。この「石綿」がアスベストだ。
体育館の天井を支える鉄筋にはまんべんなくアスベストが塗布されていたし。
まったく、他人事ではない。
おばちゃんも現在は自宅療養。同じくモルヒネのおかげで、ずっと夢の中だ。
親父の葬式からわずか2年。2家族減ると、こんなに少なく感じるものか。
時間である。本堂へ移動した。
この話は次回へ続く。