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【糖尿病】人身事故は家族の結束を強めてくれるか。

このお話は「離婚して5年以上たち、改めて元嫁を思い出してみる」の続編です。

 

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 人身事故。

専任最後の年、夏休みに入ったころだったと思う。かなり暑い日だった。

もはや夏期講習からも外され、1学期の終業式が終わったらほとんど仕事なんかない状態だった。

というわけで、ゆっくり長期休暇を楽しもうとした矢先である。

 

その日の朝、嫁は息子を保育園に送った後、派遣でどっかの会社へ出勤していく・・・はずだった。

8時半過ぎだったと思う。

突然家の電話が鳴り響く。相手は嫁だった。「ごめん、事故起こしちゃった。」

嫁は仕事場まで毎日車で出勤していた。理由は電車の混雑が嫌だから。

その理由を聞いた時ときは本当に呆れたものだったが、しかたない、これ以上ストレス溜められて何か良からぬことを企まれても困る。しぶしぶ承認した。

とはいえ、ホモ漫画執筆のために寝不足が続く中での運転である。事故が起きなければいいがと心配していたところだった。

 

相手はバイク。

嫁が細い道から、片側2車線の広い道路へ出たところで発生した。

信号も横断歩道もない、交差点というか、確かに対面にまた細い道が通じているが、朝の混雑した見通しの悪い状態で片側2車線をまたいで行くのはかなりの危険を伴う「交差点」である。

俺なら絶対にやらないだろうと確信できるような「横断」を、渋滞の中無理やり敢行したのだ。

すると渋滞の陰からバイクが出てきて、出合頭で相手を吹っ飛ばしたらしい。

とりあえず、相手は意識もしっかりしているようだ。しかし怪我の状況はまったくわからない。

 

現場は自宅からそう遠く離れていないところだったので、慌てて自転車を走らせて急行した。

現場に到着すると、すでに警官が交通整理していた。

バイクはまだ道に転がっていて、俺の車は路肩に寄せてあった。左前面がへこんでいる。

ウインカーなどは破損していなかった。

新車である。

買ってからまだ半年もたっていない。

 

バイクの運転手はすでに救急車で運ばれた後だった。

嫁が警察から尋問を受けている。

俺は警官の一人に尋ね、とりあえず深々と謝罪し、状況の説明を求めた。

原因は先の通り、嫁の無理な横断である。出勤時、急いでいるときによくこの道を通っていたようである。

幸いにも、相手の命に別状はないようだった。

 

現場検証が終わったあと、自宅に戻った。

俺は自転車で現場に来ていたこともあり、車は嫁が運転して帰宅した。

当然ながら、会社には休むと伝えたようだ。

 

さすがに落ち込んだ様子の嫁。「相手との話し合いとか、全部自分でやります。本当にごめんなさい。」なんて、めずらしく殊勝な面持ちで謝ってきた。

「そうだな、いい機会だから、いろいろとまじめに考えてみるといい。なんでこんなことになったのか、原因はどこにあるのか。」

俺としては、ここで慰めるというより、嫁自身が自分の立ち居振る舞いを冷静に考え、改めるべきところを真摯に考えてほしいと思い、こんな言葉をかけたのだが、果たしてどこまで通じていただろうか。

 

夕方、二人で保育園に行き、息子を回収した。

そして錦糸町駅前の、友人が経営している焼き肉屋で食事した。

酒飲んで酔っ払ったことも手伝い、その日の夜は執筆作業を休んでくれた。

 

何も変わらず。

もう車で出勤するのはやめるんだろうなと、確信に似た気持ちを持っていたのだが、期待は見事に打ち破られた。

翌朝、当たり前のように車で出勤する嫁。

もう何も言うことはなかった。

 

そして帰宅後、息子が寝静まってから、ホモ漫画の執筆にとりかかる。

どうしよう、事故の原因は寝不足なんじゃないか、なんて諭したほうが良かったんだろうか。

しかし、そんなことは考えなくたってわかるはずだろう。それなのに続けるということは、いったいどういう腹づもりなのだろう。

俺としては、以前からそうだったが、一層この生き物のことが分からなくなった。

 

鋸山に登る。

とはいえ、人身事故を引き起こしたという事実は嫁に少なからぬショックを与えたようで、事故後しばらくは、とても落ち込んだ様子を見せていた。

そんな様子を見て、息子も不安そうである。

よし、心機一転、ここらで旅行でもするか。

夏だし、やっぱり海がいいだろう。

いや、あの「海の生き物」を少しでも人らしいフォルムに戻すためには、山登りもいいかもしれない。

「海の生き物」のくせに、自分の体形を恥じて決して水着姿になろうとしないのだ。

水泳はカロリーを消費するには絶好の運動なのに。

 

というわけで、海も山もどちらも遊べる南房総へ旅立つことにした。

まず向かったのは鋸山。千葉へは若いころから何度も行っていたが、鋸山はふもとから見上げるだけで、登ってみたいと思いながらも一度も上がったことがなかったのだ。

ふもとからはいきなりロープウェーで山頂まで上がれる。

山頂に上がると、ここから尾根伝いに広大な登山道が広がっている。

江戸時代からの凝灰岩の採掘地でもあるので、石切り場跡がそのまま登山道になっている。

深く切り出された谷の底が道になっている。古い切り口には苔が生えており、それが幻想的な景観を醸し出している。

地獄覗きというビューポイントは必見。断崖の絶壁の頂上付近に突き出た岩があり、そこから崖下を覗けるのだ。

https://upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/thumb/e/e4/Nokogiriyama_zigokunozoki3.JPG/319px-Nokogiriyama_zigokunozoki3.JPG

ファイル:Nokogiriyama zigokunozoki3.JPG - Wikipedia

手すりがあって落ちる心配はないのだが、それでも目が眩む光景である。

息子は何も臆することなく下を覗きこんでいた。将来は相当な大物になることだろう。

また、鋸山全山が日本寺の境内でもある。そこら中にお地蔵様とか摩崖仏とかがあり、厳かな空間となっている。

 

実は、鋸山を選んだ理由の一つに、嫁をこの日本寺に参拝させようという思いもあったのだ。

別に神仏のご加護とかを信じているわけではないが、さすがに落ち込み続けている(行動は何も変わらないが)ように見える嫁に、少しでも元気に(まっとうに)なってもらおうと思ったのだ。

男で、しかもがりがりに痩せてしまった俺でもかなりハードな起伏を1時間以上上ったり下りたりした後の参拝である。

「海の生き物」にとって、その負担はもはや絶望的ですらある。たどり着けるかすら不安だったが、ヒーヒー言いながらもなんとかご本尊まで行きつけた。

 

力いっぱい手を合わせ、ぎゅっと目をつぶって必死に何かを祈っている。

自分の過失で引き起こした人身事故、嫁なりに相当深刻に受け止めていたようである。

参拝後はなんだかさっぱりした感じの表情になっていた。「連れてきてくれてありがとう。心から反省してます。だからこれからもよろしくお願いします。」と頭を下げ、さめざめと涙を流した。

 

夕方になり、ホテルを目指した。

大浴場で汗を流した後は、よくあるビュッフェスタイルの食べ放題。

息子は狂喜乱舞して海産物を頬張っていた。

俺と嫁はそんなはしゃぐ息子を肴に酒をちびちびとやる。

そしてぐっすりと眠った。

久しぶりに感じる、心からくつろげる親子のひと時。

こんな時間がずっと続けばいいのに。いや、先のことを考えるのはやめよう。今は目の前の幸せを、じっくりと噛み締めるとしよう。

 

翌日は館山の北条海岸で海水浴。

天候には恵まれた。むしろ雲がなさ過ぎて、海に入っていると太陽光をよけるすきがない。

子どもの体力は無限である。

ただし、突然電池が切れて意識を失う。

そして1時間もすると充電が完了し、また容赦なく動き続ける。

 

そこには、求めていた幸せがあった。

苦労なんかいくらしたっていい。その代わり、どうこかこの、得難い家族の幸せをずっと守り続けさせてほしい。

海に沈もうとする太陽を眺めながら、いるのかいないのかすらわからない、目に見えない何かに祈っていた。

 

この話は次回に続く。

 

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