このお話は「初めての通院 その1」の続編です。
女医である。
しかもかなり若くて美人だ・・・不謹慎か。
普段なら、医者がどんな人物であれどうということはないのだが、今回ばかりはまずい。
待合室で思い出したのだ。診察するんだから、聴診器を当てるため、少なくとも上着は脱ぐだろう。
それがまずい。
当時、俺には彼女がいた。後に女房となる女性である。
俺もたいがい頭がおかしいほうだが、その女性は常軌を逸していた。
その年の夏、つまり通院の2か月ほど前、友達含め数名で海水浴に出かけた。
そこで俺は全身に太陽を浴び、気持ちよく「海の男」の体色を得ようとしていた。
目をつぶっててもまぶしい真夏の太陽。結果が楽しみである。
すると突然、胸のあたりにヒヤッとした感覚。
どうやら彼女が日焼け止めクリームで俺のボディに何か書いているようだ。
「やめろよ、どうせきれいに書けないだろ」などと、俺もにやにやしながら書かせるに任せていた。
そしてそのまま気を失うように眠りに落ち、目が覚めたら1時間近く経過していた。
いかん、どう考えても焼きすぎである。体が火照り、のどの渇きがひどい。
ふらつく頭を気にしつつ上体を起こした。そこでやっと事の重大さを思い知る。
腹には大きく「ばか」と書いてあった。
あわててクリームを取り除いたら、くっきりと白いままの「ばか」が残されていた。
もはや芸術作品といっても過言ではないほどの鮮やかな「ばか」。
火照った体を覚ますために海へと向かうが、砂浜を埋め尽くす海水浴客の視線がそこら中から突き刺さる。
せめて少しでも薄くすることはできないか。しかし、これ以上焼いてしまったら、たぶん全身火ぶくれになるだろう。
何もここまで体張って笑い取らなくてもいいものを。
もはや泣いても叫んでもどうにもならない。開き直って昼過ぎまで海水浴を楽しむことにした。
太陽光を侮ってはいけない。
地球上のすべての生物が活動するためのエネルギー、元をたどれば太陽光である。
まだ4月だが、これからいよいよ日差しは強くなってくる。
ちなみに5月の日差しは8月の日差しと同じくらい強烈だ。
そこで必要になってくるのが日焼け止めクリーム。
皮膚がんの予防にもなるでしょう。
人生で一度得られるかどうかというような恥ずかしい腹。
そんな年に限って医者に通わなければならなくなる。
しかも若くて美人な医者。
「では上着をあげてください」
「わ、笑わないでくださいね」と頬を赤らめうつむきながら服をたくし上げる俺。
美人は眉一つ動かさず、たんたんと仕事を続けた。
それはそれで、恥ずかしがってる自分が情けないじゃないか。
自尊心を大いに傷つけられ、しょんぼりしながら次の手続きへと進んだ。
まだ若いし、とりあえず「食事療法」で経過を見ることになった。
別の、またもや若くて美人の先生から指導を受ける。
改めて「痩せなければ」と決意を固くした次第である。
この話は次回に続く。